名古屋シンフォニア管弦楽団
Nagoya Sinfonia Orchestra
曲紹介
スメタナ作曲 祝典歌劇「リブシェ」序曲
「リブシェ」は、チェコの伝説に登場する女王。彼女の夢から、現在の美しい首都プラハが生まれたと語られています。チェコの作曲家スメタナは、リブシェの登場と王位継承の物語を題材として、愛国心溢れるオペラを作りました。その始まりを告げるファンファーレで、私たちの演奏会も幕を開けます。
モーツァルト作曲 交響曲第38番「プラハ」
さて、プラハといえば、モーツァルトの38番シンフォニー。およそ230年前、時代の寵児であった彼がプラハに招聘された折にこの地で初演されたことから、このニックネームが付いています。彼の後期の交響曲としては珍しい3楽章形式で、対位法を駆使した緻密な仕組みが見られます。今回の演奏会では、この曲の構成やホールの特性に合わせて、楽員の配置を工夫することにしております。どこが違うのか、当日のお楽しみです。
ムソルグスキー作曲・ラヴェル編曲 組曲「展覧会の絵」
ロシアの作曲家ムソルグスキーは、急逝した友人の遺作展で見た絵画に触発され、スケールの大きなピアノ曲集を作り上げました。これを「オーケストレーションの魔術師」と呼ばれるフランスの作曲家ラヴェルが編曲したものが広く知られることとなり、その印象的なメロディーは誰もが耳にしたことがあるでしょう。展覧会の会場を歩きながら10枚の絵を見て行く物語となっており、1枚1枚の絵から、どのような世界が広がるのかと息を飲むほど、管弦楽の色彩が様々な楽器によって塗り込められます。
指揮 佐伯 正則(さえき まさのり)
国立音楽大学卒業、卒業後仙台フィルハーモニー管弦楽団副指揮者を務め、外山雄三、手塚幸紀各氏のもとで研鑽を積み、オペラ公演においては、G. アルブレヒト、飯守泰次郎、新田ユリ、宮松重紀各氏のもと副指揮者を務める。
いままでに東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、愛知室内オーケストラ等を指揮するほか、コウコ・ハルヤンネ(トランペット)、マルティン・オンドラーチェク、ヤン・リスカ(チェロ)、川庄和子、宇咲京子(ヴァイオリン)、白道崇、阿部麿(ホルン)各氏等国内外の演奏家との共演など幅広く活動している。
また第74回青少年音楽祭で日光特選賞氏のアシスタントを務めるほか全国各地のアマチュアオーケストラの指導をし、近年はナズドラヴィ・フィルハーモニーとドヴォルザーク全交響曲演奏を達成するなど、チェコの作曲家の作品演奏にも力を入れている。
指揮を新田ユリ氏に、トロンボーンを佐藤菊夫、箱立家一、神谷敏各氏に、室内楽を北村源三、伊藤清各氏に、ピアノを石川哲夫子、兼松慶子各氏に師事。またトロンボーンをヴィルフレド・ハーゲン、山本浩一郎氏にも学ぶ。
現在、白梅学園短期大学講師、ナズドラヴィ・フィルハーモニー指揮者。
名古屋シンフォニア管弦楽団について
1982年に愛知県内のアマチュア音楽有志によって結成され、年2回の定期演奏会を続け、2017年に35周年の節目の年を迎えました。名古屋を拠点とするアマチュアオーケストラとしては老舗の部類に入り、2003年には愛知県芸術文化賞を受賞しました。現在では、結成当時のメンバーから新社会人に至るまで、年齢も職業も様々な80名近くが集う大所帯となりました。
定期演奏会では、隠れた名曲や難曲、大編成の曲にも積極的に挑戦する特色ある選曲を心がけ、練習では指揮者はじめ経験豊富なプロの先生方からの熱心な指導の下、楽しくかつ真剣に音楽に取り組んでいます。私たちが演奏を楽しむだけでなく、お客様にも一緒に楽しんでいただけるような演奏会を目指して活動しています。
スメタナ:祝祭歌劇「リブシェ」序曲
当団の演奏会のプログラムには、「ん?聞いたことないぞ?」という曲が含まれていることが多々あります。今回はこれ。「ヴルタヴァ(モルダウ)」などで有名なチェコの作曲家スメタナが作ったオペラの序曲です。
リブシェはチェコ建国の女神。8世紀ごろ国を治めていたとされる伝説の女性です。賢明な上に透視能力を持ち、現在の首都「プラハ」は彼女の預言によるという説もあります。
オペラでは、遺産相続をめぐって女王リブシェの裁定を受ける一組の兄弟が登場します。長子相続を認められなかった兄のほうは「これだから女の統治はいかん」と憤怒。このような批判が少なくないことから「結婚して夫に王位を譲ります」と宣言するリブシェ。そして自ら農夫プシェミスルを夫に選び、一緒に国を治めることにします。その後、兄弟の和解、プシェミスルの即位などを経て、フィナーレではリブシェが6つの預言を高らかに歌い上げます。チェコ万歳!
スメタナ自身が「祝祭歌劇」と名付けたこの愛国的な作品、チェコでは第二次大戦の終戦記念日(チェコにとってはナチスドイツからの解放記念日)と元旦に演奏されることが多いそうです。本日演奏するのはその序曲で、冒頭のファンファーレは「大統領の公式ファンファーレ」として歴代のチェコ大統領の登場時に使われています。本日は誰も登場しませんが、どうぞお聞き逃がしなく!
モーツァルト:交響曲第38番「プラハ」
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756~1791)は、オーストリアの作曲家・演奏家。ザルツブルクで生まれ、宮廷作曲家・ヴァイオリニストであった父により幼少期から音楽教育を与えられる。35歳という短い生涯の間に900を超える作品を生み出し、軽快で優美な曲が多くを占める。作品のジャンルも多岐にわたり、交響曲も50曲ほど存在すると言われている。
その交響曲の一つである第38番『プラハ』は、1786年に、歌劇『フィガロの結婚』が異常なほどプラハでヒットしたことに起因して作られた。この曲は、他の交響曲に見られるようなメヌエットがないことを特徴としている。それでいて厳格な対位法を駆使することで密度の濃いバランスの良い仕上がりとなっている。モーツァルトの絶頂期に書かれた、モーツァルトらしさ満載の傑作の一つである。
第1楽章 Adagio-Allegro
ニ長調、4/4拍子。ソナタ形式。アダージョの長大な序奏で曲が始まる。この序奏は豊かな情感をたたえており、その後に書かれる『ドン・ジョバンニ』を予感させる。最初の音の並びは『ジュピター』の冒頭とも似ているが、テンポは遅く、重みがある。その後、半音階や激しい転調を経て、アレグロの第一主題に到達する。
第一主題は、第1ヴァイオリンによるシンコペーションで始まる。この主題は『魔笛』序曲を思わせ胸のときめきを感じさせる。しばらくすると、管楽器による明るく舞い上がるようなモチーフが出てくる。その後も次々とモチーフが出てきた後に全合奏(トゥッティ)となって一旦半休止となる。その後、叙情的な第二主題が現れる。
第二主題は、イ長調からイ短調へと移り、ファゴットや低弦楽器の美しいピッツィカートに乗ってしなやかな歌を続ける。その後に続くトゥッティの部分は第一主題と同じものを使っている。
展開部は、第一主題に出てきたモチーフを組み合わせた複雑なものとなっている。転調も繰り返され、非常に聴き応えがある。そしてラの持続音の後、再現部が始まり、トゥッティによるモチーフの後、簡潔なコーダで結ばれる。
第2楽章 Andante
ト長調、6/8拍子。ソナタ形式。対位法による緻密な網の目に、深い詩情をもったメロディが絡み合う穏やかなアンダンテ楽章。
第一主題は弦の弱奏で揺れるように演奏されるが、途中の半音階的な動きにより平和の中にも緊張を感じさせる。その後、ヴァイオリンのスタカートで印象的なモチーフが呈示される。
第二主題は、ホルン、ファゴット、低弦の長い属音に乗ってヴァイオリンにより奏でられる。
展開部では、このスタカートのモチーフが執拗に繰り返される中、第一主題が転調を繰り返していく。
再現部を経て、最後もこのモチーフで結ばれる。
第3楽章 Presto
ニ長調、2/4拍子。ソナタ形式。「フィガロの結婚」のようなオペラ・ブッファの世界と対位法が組み合わされた、スピード感とダイナミズムにあふれた楽章。
第一主題は、ケルビーノとスザンナのアリア「早く開けて」と同じモチーフで始まる。
流れるような第二主題は、最初弦楽器で演奏された後、木管楽器で繰り返される。
展開部は、第一主題を中心に作られており、管楽器の持続音とヴァイオリンのトレモロに支えられた低弦の動きが交錯しながら進行する。そして再現部の後、歓喜に溢れたコーダで全曲が閉じられる。
ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」<ラヴェル編曲>
「展覧会の絵」のオリジナルは、1874年にロシア国民楽派の作曲家モデスト・ムソルグスキーが、前年に没した友人の画家ハルトマンの追悼展覧会での印象をもとに作ったピアノ組曲です。後にリムスキー・コルサコフの手を経て、1920年代にはフランスのモーリス・ラヴェルがオーケストラ作品に仕立てました。このためロシア風の基調ながらもラヴェル特有の鮮やかな曲構成となっています。
冒頭とそれぞれの絵画の中間には、フランス語で「散策」を意味するPromenade(プロムナード)と題された曲が置かれ、展覧会で次の絵へと移動する鑑賞者を表現しています。これは雰囲気を変えながら何回も登場します。
Promenade
有名なトランペットソロで始まります。展覧会の未知の作品への期待や故人を偲ぶ気持ちが表現されています。
Gnomus グノム
ロシアの伝説に登場するグノムは、地底に住む小人の妖怪です。グロテスクな動機に、不気味に跳躍する和音進行、半音階での下降が加わり、奇妙な格好で歩く妖怪の所作を緩急を織り交ぜて表現しています。
Promenade
冒頭の力強さとは変わって、スラーによって優しい表情を見せるプロムナードです。
Vecchio Castello 古城
哀愁漂う古い城なのでしょう。シチリアーノのリズムが延々と続き、それに乗って美しく切ない旋律が少しずつ変化しながら繰り返されます。
Promenade
このプロムナードは威厳たっぷりに奏でられます。やがて徐々に静まり、次の曲を迎えます。
Tuileries チュイルリー
ルーブル美術館に隣接するチュイルリー公園で、子供たちが遊びの後に口喧嘩をしている様子が描かれています。活発に動き回る部分と、優しく諭すような中間部で構成されています。
Bydlo ビドロ
ビドロとは牛の曳く荷車のこと。遠くから牛車がゆっくりとこちらに向かってきます。近づくと思いの外、大きく力強い。やがて次第に遠ざかります。
Promenade
静かに落ち着いた様子で演奏される美しいプロムナードです。
Ballet des poussins dans leurs coques 卵の殻をつけた雛の踊り
まだ殻をつけたままの生まれたての雛たちが踊っているようです。装飾音やトリルを使って、雛鳥の鳴き声や小刻みな動きが絶妙に表現されています。
Samuel Goldenberg und Schmuyle サミュエル・ゴールデンベルクとシュミュイル
高圧的な金持ちサミュエルが傲慢な様子で話し始め、その後、卑屈な貧乏人シュミュイルが甲高い声で泣き言を繰り返すという、2人の対称的な様子が描かれています。
Limoges-Le marché リモージュ:市場
ムソルグスキーによると「女たちが喧嘩をしている」様子。小刻みな音符が絶え間なく続く賑やかさは、まさに市場で女たちが騒いでいるようです。そして切れ目なく、突然、次の曲につながります。
Catacombae-Sepulcrum Romanum カタコンベ:ローマ時代の墓地
パリの地下墓地に夥しい数の頭蓋骨が並んでいる衝撃的な風景を、金管楽器を中心に、木管楽器とコントラバスを添えて表現しています。
Cum mortuis in lingua mortua 死者たちと共に死せる言葉で
プロムナードの主題の変奏が弦のトレモロに乗って静かに流れます。プロムナード(散歩)と題していないのは、死者に対する敬虔さゆえでしょうか。
La cabane sur des pattes de poule(Baba-Yaga) 鶏の足の上に建つ小屋(バーバ・ヤガー)
スラブの伝説では、深い森の中、「鶏の足の上に立つ小屋」にバーバ・ヤガーという魔女が住んでいます。この曲は激しく叩きつけるような動機で始まり、その奇妙な世界がどんどん膨らんでいきます。中間部では神秘的な森の様子が描かれ、その後スピードを上げて一気に次の曲まで駆け抜けます。
La grande porte de Kiev キエフの大きな門
キエフはモスクワ遷都以前のロシアの中心であり、時代の栄光を象徴する壮麗な凱旋門がありましたが、時代を経て老朽化し破壊されました。新しい門のデザインコンペに参加したハルトマンは、スラヴ風のアーチ状の屋根を持ち鐘楼と教会が付いた門を描きました。この曲の壮大なフィナーレは、この大伽藍が目の前に現れたかのようで、鐘の音と聖歌隊の歌がこだまする絢爛豪華な情景が浮かんできます。
<名探偵と音楽> 高萩 泉
かの名探偵シャーロック・ホームズがヴァイオリンの名器、ストラディヴァリウスを所有していたというのは有名な話である。『最後の挨拶』【版によっては『回想のシャーロック・ホームズ』】に収録されている「ボール箱」という作品の中で、ホームズは安く見積もっても500ギニーはする楽器をたったの55シリングで買ってきたと自慢している。これがいったいいくらかといえば、ホームズ研究家の太田隆の換算によれば、500ギニーは1250万円、55シリングは11万円だそうな。名古屋人だったら「お値打ちだがね」と喜ぶところだ。
名探偵ホームズ氏は、作中でヴァイオリンの腕を披露するだけでなく、足しげくコンサートやオペラにも通っている。『最後の挨拶』に収められた「赤い輪」では、ワトソンに「丁度コヴェントガーデン(ロイヤルオペラハウス)ではワーグナーをやっている。急げば第2幕に間に合うかもしれない」などと言っている。この「赤い輪」は1911年の『ストランド・マガジン』に掲載されているが、ベアリング=グールドの手によるホームズの伝記では、事件が起きたのは1902年の秋ということになっている。1902年のシーズン、調べてみるとコヴェントガーデン・オペラで5月にあの伝説の名歌手エンリコ・カルーソーとネリー・メルバ出演の『リゴレット』がかかっているじゃありませんか。すごいなあ。そして9月25日にはワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』が上演されていることから、ホームズ氏が見に行ったのはこの公演でしょうかね。
ホームズ以後も音楽好きな探偵は結構いる。S.S.ヴァン・ダインが創造した探偵ファイロ・ヴァンスは本業が美術研究家ということもあってやたらとインテリを気取る、ちょっとイラつくお人である。1926年に書かれた処女作『ベンスン殺人事件』では地方検事に向かって「〔その推理は〕‥テトラツツイーニに肺病やみのミミの役を振るくらい見当違い」と言い放っている。ミミはプッチーニの『ボエーム』の薄幸のヒロインであるが、テトラツツイーニは当時マンハッタン・オペラカンパニーで歌っていた実在の歌手である。とても肺病で死にそうには見えないということを言いたいのだろうが、小説とはいえよくそんなことを言わせたな。ヴァンスはそれ以後の作品でも色々と音楽の蘊蓄を語るが、1930年の『カブトムシ殺人事件』では、当時ニューヨーク・フィルハーモニックの首席指揮者に就任したばかりのトスカニーニのことを「ひどく買いかぶられている‥・あの男がブラームスやベートーヴェンの偉大な交響曲の古典的理想を感じとることが気質的に不可能だというのは驚くべきこと」とこき下ろしている。フルトヴェングラーやワルターの方が好みだってさ。
音楽に造詣が深いのは探偵ばかりではない。犯罪者だってそうである。トマス・ハリスの創造した稀代の殺人鬼、レクター博士。映画化された『レッド・ドラゴン』(2002年)では地元の名士であり、音楽を愛するレクター先生が、交響楽団の演奏会で音を外してばっかりのへたくそなフルート奏者に腹を立て、このフルート奏者を○○して✕✕してしまう(自主規制)という場面がある。ちなみに演奏していたのはメンデルスゾーンの『真夏の夜の夢』でした。
イギリスの推理作家シリル・ヘアの作品に『風が吹くとき(When the Wind Blows)』(1949)という作品がある。イギリスの片田舎のアマチュア・オーケストラの演奏会の最中、ヴァイオリン協奏曲を弾くはずだったソリストが殺されてというお話。この時、この楽団が演奏したのはヘンデルのオルガン協奏曲とメンデルスゾーンのコンチェルト、そしてモーツァルトの「プラハ」交響曲というプログラム。被疑者は演奏者の中にいるという状況の中、ちょっと頼りない弁護士さんが謎を解くという作品である。謎解きのカギは古楽好きなら「なるほどね」という感じ。
冒頭で話に出したストラディヴァリウスだが、オークションで最高額をつけたのは2011年に落札された「レディ・プラント」という愛称のヴァイオリン。なんと1589万4000ドル(12億7420万円)だった。

