名古屋シンフォニア管弦楽団
Nagoya Sinfonia Orchestra
<曲紹介>
■ワーグナー作曲:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲
庶民が主役のこのオペラ。ワーグナーは、人物やイメージをあらわす旋律「ライトモチーフ」を駆使して物語を表現しています。ドイツ芸術の威厳が誇り高く、華々しく美しい作品です。
■リスト作曲:交響詩「レ・プレリュード」
13曲あるリストの交響詩の代表作です。「人生は死への前奏曲」という考えに基づき、リストの人生観が歌い上げられています。人生の始まり、そして愛を表現する「第一部」、人生の嵐が描かれる「第二部」、嵐のあとの静かで平和な田園生活を描く「第三部」、戦いの「第四部」から構成されています。
■ブラームス作曲:交響曲 第4番
ブラームスが作曲した最後の交響曲です。人生を振り返っているかのように哀愁が漂います。冒頭、「ため息」のモチーフと呼ばれる、弦楽器による掛け合いをはじめ、鮮やかで美しいメロディが豊富です。メロディを支える楽器にも耳を傾ければ、立体的でダイナミックに広がる感じをよりお楽しみいただけると思います。
指揮 喜古 恵理香 きこ えりか
東京音楽大学音楽学部作曲指揮専攻(指揮)及び同大学大学院指揮研究領域に学ぶ。
これまでに指揮を広上淳一、汐澤安彦、下野竜也、田代俊文、三河正典の各氏に師事。
在学中、井上道義指揮者講習会にて優秀者に選出され、同講習会のリレーコンサートに出演。
2017年9月からNHK交響楽団よりパーヴォ・ヤルヴィ氏のアシスタントに任命され、2年間アシスタントコンダクターを務めた。
最近では新国立劇場、二期会、藤原歌劇団、日生劇場にて各主催のオペラ公演に副指揮者として携わる他、広島交響楽団、京都市交響楽団をはじめその他国内各地のオーケストラと共演し活躍の場を広げている。
名古屋シンフォニア管弦楽団
1982年に愛知県内のアマチュア音楽家有志によって結成され、今年創立40周年を迎える老舗のアマチュアオーケストラです。音楽をこよなく愛する年齢も職業も様々な80名近いメンバーで構成され、年2回の定期演奏会を続けています。指揮者をはじめ経験豊富なプロの先生方による熱心な指導の もと、お客様にも楽しんでいただけるような演奏会を目指して活動しています。
ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲
ウィルヘルム・リヒャルト・ワーグナー(1813-1883)は作曲家でありながら文筆家や思想家としての才能もあり、台本自身で手掛けることで音楽と劇とを融合させ、戯曲や小説等に音楽をつけた歌劇とは一線を画す「楽劇」を完成させました。「ニュルンベルクのマイスタージンガー」は1867年に完成した楽劇で、16世紀のドイツ・ニュルンベルクを舞台としています。当時のニュルンベルクでは職人の教養として歌が重要視されており、歌い手としても一人前と認められた職人は「マイスタージンガー(親方歌手)」と呼ばれて尊敬されたようです。
今回演奏する「第1幕への前奏曲」は特に有名で、学校の式典で演奏されるほか、テレビ番組等でもよく耳にします。ワーグナーの作品では登場人物や物事を表す旋律やリズム(ライトモチーフ)によって劇中の場面を音楽と結びつける手法が多く用いられていますが、前奏曲には重要なライトモチーフが多数登場して物語のダイジェストとなっています。物語の内容と結びつけて構成を理解するとよりわかりやすいのですが、紙面の都合上ストーリーまで書けないので、ご興味のある方は是非調べてみてください。
冒頭、荘厳な「マイスタージンガーの動機」に始まり、木管楽器による「愛の情景の動機」、全管楽器主体の「行進の動機」が続きます。その後、「芸術の動機」が高らかに演奏されると、緩やかな曲調となり、ヴァイオリンの「愛の動機」、三連符が特徴的な「情熱の動機」が絡み合って頂点に達します。突然、冒頭と同じ動機がスタッカートで軽快に演奏され、コミカルな「嘲笑の動機」が加わります。再び冒頭の動機がトロンボーンなどによって堂々と演奏されると、その後は全ての動機が複雑に絡みながらクライマックスを迎え、最後は冒頭と同じ明るく荘厳なハ長調の和音で劇の始まりへと繋がってゆきます。
学生オーケストラでは式典などで頻繁に演奏されるこの曲ですが、演奏会で取り上げられることは意外と少ないので、今回当団がじっくり取り組んだ成果をお楽しみください。
フランツ・リスト:『交響詩 前奏曲(レ・プレリュード)』
フランツ・リストは1811年にハンガリー王国に生まれ、現在のドイツやオーストリアで活躍したピアニスト・作曲家です。ピアニストとしての技術が高く評価され、超絶技巧の持ち主として知られるリストですが、作曲家としては「交響詩」という形式の創始者であることを忘れてはなりません。
ところで、「交響詩って何?」という疑問が浮かんだ方も多いのではないでしょうか。交響詩というのは「標題」と呼ばれる、曲を貫くテーマを掲げた音楽のことです。ベートーベンあたりから管弦楽曲に標題を持たせ、音楽によって色彩や風景、ストーリーなどを描写する試みが活発になりました。標題に沿って種々の場面を作り、その場面を楽章に分ける形式をとるものを「交響曲」と呼びます。一方リストは、各場面を続けて1曲で演奏する作品を作り上げました。つまり、交響曲の要素がギュッと詰まった単楽章の作品を「交響詩」と呼ぶのです。
それでは、今回演奏する『交響詩 前奏曲』、通称「レ・プレリュード」の標題は何でしょうか。この曲には曲の内容を表す序文がついていて、意味は概ね次のようなものです。
「われわれの人生は死により開かれる未来の国への前奏曲にほかならない。現世は愛によって明けるが苦闘のあらしの中に暮れる。自然の美しさは心に平安を与えるが、ひとたび戦いのラッパが鳴れば人は必ず戦場に帰るものだ。(注)」
この標題にもとづいて、主題となるメロディを変形していきながら曲が構成されています。曲の冒頭から漂う不穏なパッセージは「死によって開かれ」ていく最中の不安と期待の表れだと言えます。徐々に高まってきた緊張感は、金管楽器の堂々としたメロディによって解放され、「未来の国」へと導かれます。その後はゆったりとした曲調に移行し、「愛によって明ける」現世を表現します。ところが、その美しい情愛の場面も長くは続かず、チェロのゆらめく低音に誘われて嵐が訪れます。金管楽器が鳴り響く激しい嵐の後は、静けさと共にオーボエのメロディによって心の平安が戻って来ます。ハープの音色と共に8分の6拍子へと拍子が変わり、木管楽器の牧歌的なメロディによって爽やかな田園風景が広がります。徐々に楽器数が増えメロディは力を増していきますが、ぱたりと止まって4拍子に戻った瞬間から、突然行進曲に切り替わります。弦楽器の上昇音形と共に、「ひとたびラッパが鳴る」と、主題の変奏であるマーチを演奏して堂々としたクライマックスを迎えます。
リストは単楽章の中にこれほどの場面を詰め込み、「前奏曲」の持つ標題を表現しているのです。リストの表現したかった「死によって開かれる未来」とは、どのようなものだったのか、想像力を膨らませてお楽しみいただきたいと思います。この曲は、音楽の表現の可能性について追求し、「交響詩」という標題音楽を創始したリストの壮大な夢を垣間見ることのできる作品だと言えるでしょう。
(注)全音楽譜出版社『交響詩 前奏曲』解説より引用
ブラームス:交響曲 第4番 ホ短調 作品98
ヨハネス・ブラームス(1833-1897)が作った4つの交響曲はいずれも広く親しまれていますが、その中でもこの第4番はブラームス自身も最高傑作と述べている屈指の名曲であり、当楽団でもこれまでに3度演奏会で取り組んでいます。今回、2008年2月の第52回定期演奏会以来、約15年ぶりの演奏となります。
のちに交響曲第5番として構想していた音楽が『ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲』になってしまったため、結果的にブラームスの最後の交響曲となった本作品ですが、50歳を過ぎた彼が1884年夏と1885年の夏にウィーンの南西にある保養地ミュルツツーシュラークの別荘で書き上げた作品です。「ブラームスの創作は、春の激情から夏の充溢、そうして、そのあと秋が深まり冬に変わっていくように、憂愁、悲哀、諦観といった経緯をたどっていく」と表現されますが、この交響曲第4番はまさにブラームスの後期の作品に特徴的な内面的な要素と憂愁の色が濃く深まっています。さらに、フリギア旋法やシャコンヌ形式といった古い様式を取り入れつつ、独創性と色彩によるロマン性を盛り込んで、力強くまた成熟した音楽の魅力に満ちています。
第1楽章 Allegro non troppo
冒頭の弦楽器が奏でる「ため息」の主題は、下行と上行を途切れがちに繰り返し、ものの悲しく憂いに満ち、聴く人の心をとらえます。この楽章にはブラームスのこれまでの交響曲には必ず記されていた提示部の反復記号はありませんが、展開部の主要主題の回帰はあたかも提示部が繰り返されたように聞こえる一種の「仮象再現」の効果となっています。「ため息」の主題は形を変えて繰り返し、最後は暗い情熱を持った響きの中で終結します。
第2楽章 Andante moderato
ホルンから始まり木管楽器に受け渡される旋律(ミーミーファーソ ミーミーレード)はフリギア旋法と呼ばれるバロック以前の教会で用いられた音階に基づくものであり、古風で素朴な旋律の中にも温かさを感じます。第2主題ではチェロによる表情豊かな旋律が奏でられ、この主題に様々な動機が絡んだのち再現部になりますが、コーダではホルンに最初の旋律が返ってきて、静かに消えるように終わります。
第3楽章 Allegro giocoso
ブラームス自身が「スケルツォ」と呼んでいた楽章であり、第2楽章から一転して明るく生き生きとした音楽が展開されます。ブラームスの交響曲の中で唯一ティンパニ以外の打楽器(トライアングル)も登場します。中間部ではテンポを緩め、ホルンと木管楽器が牧歌的な旋律を奏でますが、その後再び活気を取り戻し、そのまま力強く曲を終えます。
第4楽章 Allegro energico e passionato
8小節の主題を元にした変奏曲であり、シャコンヌの形式(バロック期に流行した変奏曲の形式)を構築し、この主題は36回変奏(解釈によっては主題と30回の変奏とコーダと説明)されます。曲態は楽章を通じて悲劇的な雰囲気に包まれますが、中間部の第12変奏では、フルートが印象的なソロを聴かせ、続く第14、15変奏では、管楽器によるコラール風の素晴らしい響きが奏でられます。その後は主題が再現されて発展し、劇的なフィナーレを飾ります。
参考文献:
野本由紀夫 解説『ブラームス 交響曲第4番 ホ短調 作品98』全音楽譜出版社 2016年。
吉田秀和『ブラームス』河出書房、2019年。